蝋燭と闇
はじめ
こんな空の夜には詩を書こう
蝋燭の炎が微かに揺らめいて蝋燭の液状が受け皿に垂れていく
部屋の暖かい闇が蝋燭の炎に合わせて揺れていてその存在に気付くと僕と一体になる
窓からは満天の夜空が覗いていてこの部屋に光が射し込んでいるが この部屋全体を照らすことはできない ましてやこの暗闇を中和させてかき消すことはなどできない
この部屋は何処か高く宙に浮かんでいるような気がする ちょうどあの星と同じような高さに
僕はせっせと詩を書き続ける 白いカラスの羽ペンとインクで モーツァルトが一度も書き直さずに楽譜を書いたようにすらすらと
詩の言葉は無限の宇宙を流れる 太陽系を越えて銀河系を越えて宇宙を越えて 君の星へと流れ着く そこは天国でも涅槃の境地でもなくて でも僕らが生きている世界ではない
君は美しい自然に満ち溢れたその星で僕の詩の言葉が流れ星になって降ってくるのが見える その流れ星は決して自然を破壊することをせず墜落していく 君に拾われた言葉達は光って君の胸に吸い込まれていく 君の心が再生していけばいいんだけど
僕はこんな夜にこうやってこんな風に詩を書き続けている そして君の元へと送り続けている もう何年とこんなことをやって来ただろうか 僕は暗闇と密接し 時間のことなんて忘れて詩を書いている
蝋燭の火は相変わらず暗闇を焦がしている 朝が迫ってきていて暗闇は徐々に存在感を失っていく 蝋燭が短くなっていく
外の静寂と暗闇を突き破るかのように雀が鳴く
僕は現実に引き戻されていく
蒼い光が外から入ってきて羽ペンを握っていた骸骨は白みを更に増していく
蝋燭は既に干涸らびていてしかし黒い暗闇に似た煙を立ち上らせているのが見える
机には生涯をかけて綴った何千編もの詩が山積みになっている
眩しいオレンジ色の朝が君の世界にも照らされて幸せに暮らしていることを強く願っている