創書日和「歌」 あなたには歌えない
北野つづみ
カナリヤの歌が聞こえる
あなたには、聞こえない
わたしには、聞こえる
葦原を吹き抜ける風の音に混じって
低く、すすり泣くような旋律
私は言葉を持たない
歌うべき歌もすでに無い
止まり木から翼を閉じ
硬く目蓋を閉じて
落下するだけ
空が落ちてくる
侵食されていくビスケット
ゆっくりと汚染されていくブラウス
明日に溶けていく夜
体中を駆け巡る闇
落下音が
あなたの耳に届いたら
それが私の最後の言葉
あなたにとても伝えたかった歌
歌を、歌ってみる
カナリヤと
同じ旋律
おなじフレーズ
あなたにはまだ、歌えない
二〇〇七年三月三十日
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