「アデリー」
ソティロ
「アデリー」
アデリーペンギンの群れが
ぼくめがけて押し寄せてくる
100…200、数え切れない大群だ
どこまでもまっしろな大地を
ある者はてくてく一生懸命に
ある者は腹ばいになってすいーっと
勢いよく近づいてくる
やばい、めちゃかわいい
ペンギンってなんであんなかたちなんだろう
愛されるためとしか思えない
さあはやくはやくこっちへおいで
ほら!ほら!
アデリーペンギンの群れに取り囲まれる
たくさんのペンギンがぼくの顔を見上げる
ちかくの者は脚をくちばしで突っつく
こらこらくすぐったいったら
やめてやめ、痛!痛いって!
ぼくは堪らず腰を落として
ペンギンたちをなだめた
あたまを撫でてみると
とってもやわらかで
ふかふかした毛、羽毛?が
すごく気持ちいいなあ
と思った瞬間に目玉をくり貫かれた
ぼくは大声をあげて
そこらを転げまわった
アデリーペンギンの群れは
ぼくに乗っかったりもう黒山で
ぼくのあちこちをついばんだ
もうそれは生まれてきて
いちばん痛い体験だったんだけど
ぼくがだいぶ減ってしまった頃に
痛みは引いていった
たぶんこの肉を口に蓄えて
灰色の雛?こどもに与えるのだろう
ふかふかまんまるのこどもはすくすく育つだろう
そんなぼくを見ていると
なんだか大きなものに抱かれていくように思えて、
そうしたらぼくのからだのなかの、
ぼくの罪が粒子になって
ちょうど水中の気泡みたいに立ち昇って
オゾン・ホールに吸い込まれてとけた
それはもう生まれてきてから
いちばんのエクスタシーだった
あんまり多くのアデリーペンギンに引き千切られたものだから
その時ぼくはもう骨しか残っていなかったんだと思う
ぼくの居た場所は決して氷が融けないところだったので
ぼくの骸骨は還らずにそこに残ったんだと思う