TOAST
水町綜助
パンのみにいくるにあらずとパンなしではしんでしまいますよ
数えれば29個も
もっと切ってひらいてつまんでいけばたくさんの
おれを連ねてきたものだなあ
たてに
たてだけにかさねて
それで
そらはみえたか
まだ
まぶしいか
そんなでも
なにが
ある?
「ああようやく
たべることがわかったよ」
*
たべている自分が見えた
普通にアパートの台所で
ぶあつい食パンを両手で持って
きつねいろにこんがりと焼かれたあたたかいパンを食ってた
「バターだけでいいです」
牛の乳だけから出来たこがね色のバターを
四角く切って
あったかいパンのうえにのっけて
しばらくみてると溶けてくんだ
下の方からしみ出して
甘くてまろみの在る味がとけてしみて
るる、とパンのうえをすこし滑って
みんなたべたくなってきたかな
いただきます
おれはそれをかじる
両手でもって
幸せそうな顔で
こうばしいねバターの香りうまいね
ね いきられるぞ
おなじとき
隣の青い屋根の家の食卓で
その隣のコンクリ打ちっぱなしのマンションで
その隣の公園でサラリーマンが
その隣のガード下で放浪者が
その真横で猫がひだまりで
やっぱり何かを喰ってるいろんな味のする何かを
それぞれ
たいせつ
大切に
おれは昨日
いままでひとに言ったことのないようなうそをついたよ
それは自分のためでしかなかったよ
あたりまえのように
じゃなきゃ言わねえよ
そうしたら何かかるくなった
ああ、いうなら熱がようやくさがった夕暮れどきみたいなかんじだよ
薬飲んでさ
うそみたいになおったよ
すごくけだるいよ
でもそれで食欲がでてきたおかげでパンくえるんだね
いまのおれは
うれしいよ
なみだが出てくるよ
おいしいなあ
ああバターしょっぱいねぇ
あぁあ
よく焼けてかど硬いからさはぐきからちがでたよくそ