病院にて
はじめ
僕は窓際のベッドの上にいる
大きな窓からは鈴懸けの木が葉を張り巡らせているのが見える
部屋は六人部屋で僕を含めて二人しか患者はいない
僕は不治の病に冒されている
五月の程良い温度の透き通りキラキラしたターコイズブルーの風が僕の胸元を優しく撫でる カーテンが静かに舞い上がる
午後の日差しは暖かい 時々廊下を看護婦さんが忙しそうに歩いてくる 僕は備え付けの机に向かって詩を書いている けっこう順調に進んでいる
神聖な雰囲気が胸の奥に染み込んでくる この世に神様がいると信じてもいいと思う
たとえこの病気が治らなくても
そういう人は世の中にいっぱいいるはずだから
でも僕は世界に一人だけしかいないような気分になった
途中で行き詰まっていた詩の進み具合が堰を切ったように早くなった
僕はノートにペンで詩を書いている
これまで書き溜めた詩を出版するのが僕の夢だ
僕が死んだら親戚のおじさんに保険金で詩を出版してもらうように頼んでおいてある
両親は既に死んだ
兄弟はいない
詩を書き終えると僕は医師の許可を得て付属している教会に行くことに決めた
教会は質素だが細工が細かなステンドグラスから光を通してカラフルに彩られていた
僕が奥へ進んでいくと神父がにっこりと笑って僕に座るように合図した
僕は最前列の椅子に座って神父から聖書を受け取り立ち上がって もう一人の神父がオルガンを弾くと賛美歌を歌った
僕は神父の外国語の説教を聴きながら何度か立ち上がり その度に賛美歌を歌って 一欠片のパンと葡萄酒を貰って 最後にお祈りを捧げて教会を後にした
部屋に戻ると夕日が西側に傾いていて 一番星が南西の空に輝いていた