青炎の花
服部 剛
「個人的なジコが起きたんだ」
老人ホームの会議で夜遅くなった帰り道
同僚は先日別れたばかりの
妻と子の話を切り出した
涙を堪えた瞳で手を上げた彼は
交差点を渡って
独りきりのバス停へ
片手を上げ返した僕も
もらい泣きを堪えながら背を向け
反対のバス停へ
なだらかな坂道の途中で見渡す
無数の明かりを散りばめた
街の夜景のプラネタリウム
この小さい両手では
すくいきれない
いくつもの哀しみ
闇のまにまに
危うい点滅を繰り返す
日中は
目の前に覆う闇を
振り払うように
お年寄りの輪の中心で
おどけてお手玉をしていた彼
孤児で
見知らぬ人に育てられ
優しい大人になった彼
妻と子に去られ
独りの夜に膝まづき
彼は両手を合わせる
罪も無く十字架にかけられ
頭を垂れた あの人 に
( 神よ、何故、私を見棄てるのですか・・・ )
彼の頬に、涙が伝う。
あの人 の頬に、涙が伝う。
ふたりの間の闇に咲き
炎のように揺らめく
哀しみの青い花