春の和音
銀猫

仄白く明けてゆく空と
暦の眠りから覚めた蕾が
共鳴して
三月の和音を弾く

冬を忘れた陽射しは甘く
僅かに紅を挿した絹の切れ端に
はなびら、の名を与える

こころにある哀しみや空洞を
ひらり、
舞い降りてはそっと隠し
ただ天晴の青に沿い
眼でしか聴こえぬ旋律で塞いでゆく


さくら、さくら
いくつかの黒鍵に触れながら
陰音階を弾いているのは
根元に息づくというしろい指

さくら、さくら
その楽譜には
春、とだけ記されて

誰かには力強い連弾で
ちがう誰かには円舞曲のように
深いところに流れ着く

ささやかな音楽は
気温を一度上げ
俯き加減の頬も
薄桃色にたわんだ枝を
そっと見上げる

さくら、さくら。




自由詩 春の和音 Copyright 銀猫 2007-03-28 13:30:46
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