なくても
ねなぎ

ふと
アパートの鍵をなくして
アパートの前で
うろつく事
約三十分

ポケットの中から
靴の底まで
脱いでみて
どうでも良くなること
それから
二十分後

どこかにでも
落ちてないかと
帰り道を
戻りながら
探す

軒下やら
アスファルトやら
側溝の泥の中
そして
生垣とか
人の家の玄関まで

下ばかりを
見続けて
コンクリやら
鉄やら
土を
追っていると

ふと
帰る道をなくしていた
迷うこと
約十分
諦めること
それから
三分

とりあえず
なんとなく
そこら辺を
歩いてみる

もう当てもなくて
どうしようかと
思うことに
偶然
帰れるんじゃないかと考え
鍵がないことに気がつく

電柱から
電柱へと
看板やら
番地やら
交差点の名前を
見続けて
上ばかり見ている

気がつくと
金色の
星だか桜だか
学生服のボタンみたいな
悪趣味な看板を発見

制服と
目が合ってしまい
そういえばなんて
思って
声をかけようとして

ふと
自分の名前をなくしていた

ふと笑えてきたら
変な目で見られて
足早に退散

変に向こうから
気になるのか
手招きしていて
どうしようかと
思ったけど
見ないふりで
ひたすら逃げる

足音が
後ろから駆けてきて
無我夢中
もう
やたらっめったらに
手足を動かし

気がつけば
息を切らして
うずくまっていた

ふと
見上げると
自分のアパートで
何となく
ポストを探すと
鍵が入っていた

でも
未だに
自分の名前だけが
ない

諦めること
二秒


自由詩 なくても Copyright ねなぎ 2007-03-26 12:59:02
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