クリスマスイヴ
はじめ

 山下達郎の「クリスマスイヴ」をゲオから借りてきてMDに入れる
 僕は街中でウォークマンで聴く
 リピートだ
 高さのある花壇に腰を下ろし 僕は来るはずもない君をずっと待ち続けている
 今日は偶然にも「クリスマス・イヴ」だ
 泡雪が降り 恋人達が溢れている 街は今日という日を祝福しているのか一際明るい
 僕は音楽には耳を傾けず目の前のケーキ屋のショーウインドウに並べられてある様々な種類のケーキを何時間も飽きずに眺めている
 チーズケーキ バターケーキ チョコレートケーキ イチゴケーキ シフォンケーキ… どれも店内の照明で美しく輝いている
 店内で働いている女性はかなり美しく その様子をじっと見つめていた
 飽きない 近くには「ハチ公」の石像がある
 『きっと君は来ない 一人きりのクリスマスイヴ』と突然耳に入った 僕は歌の世界に引き込まれてしまった
 どうしてこんなところにいるんだっけ? 歌に感化されて来るはずもない君を待っているんだっけ?
 やがて人々の数は少なくなっていき ケーキ屋も閉まり 明かりが消えて 時刻は十二時を過ぎた 辺りはしんと静かになって 外灯だけになって サンタクロースの足音が聞こえてきそうだ
 雪は止んだ 僕は夜空を独占していた この一面に広がる夜空は大都会をまるごとごくりと飲み込んでしまいそうなぐらい巨大に映った
 僕はコンビニでイチゴケーキを買って家に帰った 明かりを灯さずにケーキを取り出して君の歳の分だけロウソクを立てて 火を付けた
 僕は火をすぐに消した 黒い煙が顔にかかる
 メリー・クリスマス そう言って僕はもたれかかっていたベッドに横になり カーテンを開けた
 いつの間にかまた泡雪が降っていて 夜更け過ぎに雨へと変わるだろう と付けっぱなしのMDから山下達郎が歌っているのが聞こえた


自由詩 クリスマスイヴ Copyright はじめ 2007-03-26 05:49:20
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