車内の隣人
服部 剛

喉が渇いたので 
駅のホームのキオスクで買った 
「苺ミルク」の蓋にストローを差し 
口にくわえて吸っていると 

隣に座る 
野球帽にジャージ姿のおじさんが 
じぃ〜っとこちらを見るので
僕は少し眉をしかめた 

「苺ミルク」を飲み終えると 
隣のおじさんが手にした時計が 
( ぴんぽーん・9時ニナリマシタ ) 
と大声で知らせたので 
ふたたび僕は眉をしかめた 

電車が三駅目に停車すると 
おじさんは立ち上がった 

手にした白いステッキを頼りに 
とんとんたたきながら 
雨水で濡れた床に 
少し足を滑らせ
開いたドアからホームへと 
溝をひょいとまたいで 
ぎこちなく降りていった 

電車のドアが閉まった 

手にした本を開いたまま 
なにもできず 
曇りガラスの向こうに消える 
おじさんの後ろ姿を見送っていた 

盲目なのは、僕だった。 





自由詩 車内の隣人 Copyright 服部 剛 2007-03-25 22:02:05
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