ワーキングホリデー
水町綜助

月がね
切った爪みたいでね
汚れた爪
置かれてた
夜空に貼り付いた枝の隙間に
どこまで歩いても
消えなかった


もうどこにいけばいいのか
わからないはるが白すぎて
どこからいなくなったって
どこにとどまったとしても
いくつかに切り分けられて
差し出さなければならない
見ることになる肉の断面を


爪をね
さされて腫れたところに立てていた
跡が付いて
一瞬白くなってすぐにまた充血した
息を吹きかける


 *


行儀良く取り分けることのできない出来事のうえに
山で拾ってきた記号を適当に散りばめて置いてある
そして腕組みして眺めている

 「それはいったい何の実験なんだ?」と小学六年生の友人が訊ねてきた。
 彼はまだ何も成せない内に不幸にも死んでしまった。
 ようにみえたがしかし自分にしてみればそこから先は余分でしかない
 かもしれないと思い、
 一瞬だけ思い、僕は純粋に泣いた。
 もう二十年くらい経ってしまっている。

空が白んできた
日が差せば底のほうから溶け出していつしか混ざるんではと願っている
が、それがかなえられることはない
最小単位を切り刻むことができないのは当たり前だ
そして輪郭が異なっているものでも熱をかけて溶かせばするすると・・
と、錯覚することも
ましてや自分以外に理解と曲解を求めることもまた




とつぜん爆発が起こった
もうもうと煙が立ち込めている

あくび混じりに日めくりが破かれ
春一番が吹いて
煙が飛ばされていった


金平糖がひとつ転がっていた


それは八方破れにとげを突き出す金平糖だった
どのとげもあたりまえのように砂糖だ
だからひとつひとつとても甘い
いろは薄い黄色だ

だから子供でも分かるようなことをもう一度することになる
実験は失敗だった
これがほしかったという老人もいるにはいたがもう持ってるじゃないですかとそちらも見ずにいったら

消えた


 *


海辺にいる
太陽が
燃えて落ちる寸前の
溶けた鉄の色だ
燃えている
電力計が回るような音を響かせて
初夏の夜に一晩中鳴く青い虫の鳴き声にも似て

なみが打ち寄せる
ちょうどはだしの親指だけ浸るところに立って
半身ふり返った

逆光で顔は見えない
目だけは黒くて
泣いているみたいだった

ひとつ

大きななみがきて

口をひらいて

かなたの太陽が

あいた口に重なって

影の君は

太陽をたべた


 *


もしもし
もしもし


 *

 
もう世界旅行に出かけよう
木刀は俺が人数分作る
は、
やぶからぼうに
物騒だな
いや車上荒らしが多いから
あ、そうか
世界旅行?
車はバンだね
そこはメイドインジャパンで
ホーミーだ
え、ハイエースじゃなくて
うん
はしれんくなる
単車もいいけどね
はしれんくなるいやんなる
だらだら行くのはやっぱ車かね
できるだけくだらないことを
え、なに
ヒト助け
あそびでヒト助けすばらしい
ひまつぶしに
妖怪退治
ひとばしらをそしとか
いけにえを助けるとか
むらびとの目をさまさせる
迷信とかきって
酔っ払ってんすか
感謝されるわ
むすめが好きに
こいありわらいありなみだありか
こいはいい
いやいらないと、もう
ヒトに会うだけで十分
しかたないか
そりゃ
ああ
でも慣れるために
なにに
さようならに
こんにちはと
さようならに
たくさん

そして


自由詩 ワーキングホリデー Copyright 水町綜助 2007-03-25 20:38:38
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