郷愁
霜天
実感
いつまで経ってもこの指には絡まない
終わる素振りを見せない工事現場が
点滅する、光を放って街の一部になる
もう、戻れないところまで来ているらしい
この指には何も、絡まないけれど
たくさんのものを枯らしてしまって
たくさんのものを捨ててしまった
望遠鏡から覗いた草原には大勢の人が
昔からそこにいたかのように、整列している
これから順番に
そこから順番に
綺麗な列を作って
緑の川の中に人、という文字を流していく
沈んでいくわけではなく
寒い呼吸を吐き出すでもなく
ただ、日常のあれやこれ、触れたもののそれやこれ
重い肩をおろしてしまうように
ことり
ことり、ことり
と、
積み上げていく
どうしようもないものの、すべて
君はいくつかを拾い上げて
踵の辺りから
その分だけ君自身を零している
春になったら、新しい花を育てたくて
あの懐かしい道をなぞってばかりになる
この街はまだ何かを拾おうとしている
そんな、実感のない呼吸をここに見つけた気がして
窓を開ける、低い空が零したものが
いくつかは地下道にまで染み込んで
遠くない海へと落ちる
どうしようもないものの、すべて
なんでもないものの、かけら
混ざり合った夕暮れは懐かしい匂いがする
深いビルの谷間
流れない声の道
一つをなぞれば、届くような気がする
この指には何も、絡まないけれど