石神井日誌
馬野ミキ
日曜の朝
一人の娘が固まっている
俺の妻だ。
枕元に携帯電話が二つある
電池パックを入れ替え
その機種でしか出来ないゲームをするらしい
いまはモンスターハンターというのをしている。
雨が降っている。
妻が布団のなかで煙草に火をつける。
俺はインターネットをしている。
笹目通りを行きかう車が水を跳ねていく音が聞こえる。
この天気を見越して昨日雨養生をしておき正解だった
建築現場でスリーブ工をしている
鉄筋コンクリートの壁面や床から天井へ
電気やガスや水道を通す為の配管を通す穴を確保する仕事だ
生コンを打設するまえに枠を仕込んでおき
固まったら枠を取り外す
それらを延々と繰り返す。
妻がテレビのスイッチを入れる
娘は布団のなかで固まっている
そうして二人は黙ったまんま笑っていいともの増刊号を見る。
妻が窓にへばりついて結露を飲んでいるので静かに抱き寄せる
顔を近づけると妻は目をそらし俺の顔を手で押しのけたが
押しのけたその手のひらの頬への感触が
まるで子どもがいやいやするみたいにかわいかったので抱いた
妻が手をぐーにしたのでそれを包むように握る
インターホンが鳴った
ベビーバスが届いた。