Six

彼を偲ぶならば
彼が好きだった酒を口に含むより
彼の好物だったカレーを食べたい

暖冬とはいえ
この冬でも
舗道は冷たく
インフルエンザも流行ったし
朝に吐く息は白かった
ようやっと
きりきりとした空気が緩み
今夜は雨で
雨粒がゼラニウムの植木鉢の土を
黒く濡らしている
雨音に包まれた屋根の下
彼を偲ぶならば
台所にカレーの匂いを漂わせ
湯気のぬくもりの中で
春の到来を思いたい

彼が目を閉じたそのすぐあとに
日本は春になってしまったみたいだ

彼の子供ぽい心を満たしたカレーの香りを
今年の春の一番目の空気として
鼻腔におさめ
冥福を祈ろう


未詩・独白 Copyright Six 2007-03-25 01:43:30
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