笑顔
松本 卓也
意味も無く天井を眺めると
ヤニで微かに濁る壁を通り越して
或る日の横顔が浮かんでくる
空間に溶け込んだ表情は
手を伸ばせば頬に触れれるようで
近づけば温もりを感じれるようで
あるはずの無いと思い知っているのに
写真に撮って残していたかのように
どんな時でも思い出せていた
交わした言葉の殆どを忘れたのに
どうして同じ顔を見れるのだろう
その顔の横で自分が浮かべていた
表情がどうしても思い出せない
きっと笑っていたんだろうけど
どんな種類の笑顔だったのかな
君と離れた日を振り返ると
面白くて大笑する事があれば
納得いかずに苦笑を漏らす事もあった
だけど幸せを感じた小さな瞬間に
浮かべた事もあっただろう微笑みは
どんなものなのか忘れているようで
まるで記憶の淵に潜む過去の君が
僕の表情を奪ってしまったような
そんな錯覚さえも覚えてしまう
きっと君の笑顔を忘れる日まで
微笑む事を忘れたままなのだろう
だけど今の間だけ
いつか微笑む日が来たのならば
その時こそ君から放たれたれるのだろう
だから今の間だけ
君と並んで笑っていた
あの夜に浸らせて