恋する空の髪
蒸発王

空は
地球を抱き込み
星の光を反射して
きらきら輝く
長い美しい髪を持っていました


『恋する空の髪』


宇宙風にあおられて
空の髪が凪ぐと
地上からはハケではいたような
繊細な筋雲が描かれ
月がうっとりと口笛を吹けば
困ったような羊雲の花を咲かせました

空の髪には
本当の色がありません

見る人によって違うのです
ある人は金色だといい
またある人は銀色だといい
焦げ付くような赤だとも
恥じらうような桃色だとも
溶け込むような黒だとも言われています

当の空というと

一番好きな色は青色だったので
其の長い髪を青色に結いあげて
涼しげにしておりました
宇宙の風が
さらされたうなじを優しく撫で上げ
空はぼんやりと
この小さな惑星から
遠くの銀河を見つめるのです

星達は孤独でした

命の拍動だけをたよりに輝いても
遠くの星は近くには来てくれません
そういう星を抱きめながら
やはり空も孤独でした

だたひたすら
心臓の鼓動を瞬きにして
絶対純度の暗黒宇宙に響かせて
お互いの孤独が
銀河に充満する日々が
何千年も
何億年も
続いて


ある日

空は初めて
自分に近づいてくる星に出会いました
空に負けない長い髪の毛を
一つに束ね
宇宙の風よりも早く速く
閃いて突き進んでいく星でした
塗りつぶした悲しみを
切り裂いていく

彗星 の姿に

空は心を奪われたのです

彗星は空の青い髪をじっと見つめ
かすめるような
接吻を施して
また旅立って行きました


空の髪の毛は真っ赤に染まりました
艶やかに咲く椿のような
初々しさを流し込んだ朱色でした
結いあげていた長い髪を
ゆらゆらを垂らし
夢見るように流れます

次はいつ会えるだろう
どこで会えるだろう

思いをめぐらしながら
わずかだけ巡り会った
あの時
遠ざかる背中と
かすめるように髪にうけた接吻に
思いをめぐらしながら

初めて会ったあの瞬間になると

毎日赤く染まるようになりました

このときばかりは
いつも結いあげた
青い髪を
長く長く宇宙風になびかせて
どこから接吻がきても
受け止められように
無限に広がって見せるのです



どこまでも
どこまでも
近づいては消える彼の星に


恋をして



でも会えない寂しさが
空の髪をうなじを
真っ青に染め上げ
夕焼け空には鮮やかに
赤い牡丹の花が咲き


空はもっと深く遠く


美しくなって


もう何億年も前から
ずっと
ずっと

恋をして

この宇宙の片隅で
今日も髪をなびかせているのです













『恋する空の髪』


自由詩 恋する空の髪 Copyright 蒸発王 2007-03-24 20:49:19
notebook Home 戻る