スミスという犬
tibet




ここさ、庭広いでしょ。
全部芝生だしさ、小川まであるしね。
水が綺麗かどうか知らないけどね。
夏はお前、入るんだろうね。

目の前の大学にはもっと広い芝生の庭があるよ。
お前、ここならフリズビー覚えられるね。
コンクリートは走ると痛いもん。
急に止まっても、そのやわらかい足の裏痛くないよ。
でも、芝生の緑がすこし傷んじゃうね。


掃除が好きなわけじゃないんだよ。
汚いキッチンが大嫌いなだけ。


もう犬は飼わないよ。
どうせ私より早く死ぬだろう。
私より長生きするとして、
私が死んだ後はどうするの。


毎日あなたの好きなあの場所へ行って
摘んだ花一輪飾りましょう。
そして一度だけ吠えましょう。


毎日あなたの好きなあの人に花を摘んで届けましょう。



ああ、あの人が世話をしてくれるかもしれないね。



私はそれを断りましょう。



でも、花を摘み過ぎちゃいけないよ。
来年咲かなくなるだろう。


私は吠えますよ。
一度だけ。


私の骨を撒いてはくれないだろうか。
海がいいと思ってるんだ。


毎日少しずつ骨を撒きましょう。
そして少しだけ舐めるでしょう。
なくなる頃には私の骨は太いでしょう。


たくましいねお前は。
私はあの人より先に逝けないのはイヤだよ。


私はあなたを見送るのが務めでしょう。
夜にはどうにかろうそくを一本ともして、
いつものテレビを観るでしょう。
たまにはタバコに火をつけて、
懐かしい匂いも嗅ぐでしょう。


ごめんね。お前。
あまり家に帰らなかったから寂しかったね。


夜になったらまた会えるでしょう。
それなら庭の芝生も、裏の小川もフリズビーも、
草花の匂いも、あなたの嫌いな小さな虫も、
走って、飛びかかって、追いかけて、
全部あなたと私の物でしょう。


自由詩 スミスという犬 Copyright tibet 2007-03-24 11:30:39
notebook Home 戻る