うたうたえ、たぬきよ
角田寿星
昔むかし
たんたんたぬきというテレビドラマがあって
主演は森光子で
ドラマのラストには
料亭たぬきに集う大人たちが
毎回かならず
たんたんたぬき を大合唱した
たんたんたぬきのキンタマは
かあぜもないのにぶうらぶら
テレビだからか恥ずかしいからか
ドラマの出演者はそろいもそろって
キンタマのとこだけ うたわなかった
森光子は主演だから
うたわないとドラマが終らない
静まり返る料亭たぬきに
かぼそい森光子のキンタマがこだまする
うたえよ たぬき 歌のつづきを
美しくたけるような風にふかれ
変奏されゆく季節と 伝承の膂力と
時にはつよく何かを語ろうとする
それをみていた子だぬきが
父ちゃん いいモノもってるね
ぼくはドラマでうたわれた続きの歌詞を
どうしても思い出せない
内股にはりついたキンタマ袋を
ズボンの上から そっと伸ばしてみる
泣いてるような空の色に虹は架からない
それをみていたブルドック
なにかと思って噛みついた
高速道路のパノラマ 車に轢かれ
ぺしゃんこに横たわるたぬきの八畳敷
生涯をぶらさがったおまえのキンタマは
さぞ重かっただろう
おまえの人生をかけて背負い続けた
キンタマを締めつけられる思いは
さぞつらかっただろう
それをみていた親だぬき
腹をかかえて わっはっは
道を歩くのに答えはいらないんだとおもう
ほんとうの正義なんて誰にもわからないんだとおもう
生まれてくる子どもたちのため
ほんの少しでもこの世界がよくなるために
せめて自分はまっすぐに生きていこう って
そんなの ただの欺瞞にすぎないことに
齢をかさねて 気づいてしまった
それをみていたブルドック
おじさん イモをくださいと
たんたんタマキン噛みついた
腹をかかえて わっはっは
うたえよ たぬき うたいつづけよ
おまえのそれがどんなに重かろうとも
無表情にシャッフルされるカード
風化するステップ
砕け散るプラットホーム
人生泣き笑いなんてとんでもない大嘘で
泣きたいことだらけで世界は充満して
突然 道の真ん中で力の限り叫びたくなってやはり叫べなくて
その場に崩れ落ちるように倒れてしまいたいのにそれさえも果たせず靴に入った石ころを取るふりして少しだけ立ち止まり
たぬき
おまえの名を呼ぶ
それをみていたメスゴリラ
バナナと間違え 食べちゃった