部屋の灯火
鼈甲

生きる意味って何だろう。

ボクはある人にそう聞いてみた。


その人は、とても暗い部屋に一人でいる。

その人は、じっとボクの目を見つめてから、
ゆっくりと答えてくれた。

「物」が生きるとは何だと思う?
彼らは「存在」するから、生きているのだよ。
それを貫くことが、彼らの生きる意味なのだよ。
「人間」からすれば、「物」が「存在」していなくては、
意味がないのだからね。

「植物」が生きるとは何だと思う?
彼らは「存在」し、「繁殖」するから、生きているのだよ。
それらを貫くことが、彼らの生きる意味なのだよ。
「繁殖」しなければ、いつか全て枯れてしまい、
「存在」することができなくなるのだからね。

「動物」が生きるとは何だと思う?
彼らは「存在」し、「繁殖」し、「意思」を持つから、生きているのだよ。
それらを貫くことが、彼らの生きる意味なのだよ。
「意思」を持つことによって、
「存在」の奪い合いが生じるのだよ。


では人間は?

ボクは少し焦りながら訊いてしまった。


その人は少しボクに微笑んでから、
少しずつ答えてくれた。

「人間」は、「動物」であって、少し違う。
彼らは「存在」し、「繁殖」し、「意思」を持っている。
さらに、彼らは複雑な「思考」、「感情」を持っている。
だから、彼らは生きているのだよ。
それらを貫くことが、彼らの生きる意味なのだよ。
彼らは、「存在」の奪い合いを「思考」し、
彼らは、「感情」によって、全てを行うのだよ。

だから彼らは、生きる意味を無くしてしまうことである、
殺人や自殺を、「罪」と呼ぶのだよ。

だから彼らは、「罪」を行うと、
「悪」を感じてしまうのだよ。

でも、彼らは、「感情」を持ち、「思考」するから、
この通りにならない場合もあるのだよ。

「人間」は複雑な「存在」かもしれない。
だけれど、精一杯「存在」し、「繁殖」し、「意思」を持ち、
「思考」し、「感情」をもつこと。
それが「人間」の、生きる意味なのだよ。

さあ、あとはよく考えてごらん。
今度は、あなたが「思考」して、答えを出してみる番だ。


そう言って、その人は目を閉じてしまった。
ボクに、再び語りかけることは無かった。


その時、部屋が少しだけ明るくなったような気がした。



自由詩 部屋の灯火 Copyright 鼈甲 2007-03-23 17:41:33
notebook Home