海を
ふるる
海原に月がひとつ満ちていた
波は立ち上がっては落ちていく
暖かい夜なので淋しい予感はない
浜辺に置いてある椅子は日に焼けて
幼い頃の君はそこに立って遠くの方を
眺めて言っただろう雲があるよ波もある
かもめも飛んでる船もある魚が光ってる
君の肌は日に焼けて潮風があたっていて
しょっぱい味がしてまるで海の生き物
みたいだったよ君はまったくうごく
物にしか興味がなくってその目は
いつまでもきらきらと輝くんだ
海は見ていたよ君と同じ様に
夜疲れて眠ってしまった君に
海は子守唄を優しく歌っていた
ため息一つだけついて君は寝返り
とても暑い夜だった今夜とは違って
暑い夜なので悲しい予感はなくむしろ
君の手や足を成長させるのにはいい温度
額に浮かぶ汗を誰かが拭ってくれていた
それから月日がたってここにはもう誰も
暖かい夜なので魚もお腹が一杯だろう
僕は君がよく動く指でさっと捕まえ
すぐに捨てたものだったけれども
昨日のことのように覚えている
君が海と風を眺めていたこと
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