Arabesque
結城 森士

眩しい路上の中心に
倒れこんだ青い服の少女は
かつて僕の姉であった

(記憶)黒い鉄格子の向こう側に
姉の通っていた巣鴨小学校があり
僕は毎日、黒いアスファルトから
柵越しに姉の姿を探していた

学校から帰ってくると
ランドセルを放り投げて
白いピアノを弾いている
アラベスク
夢の中では
白い霧の向こうで
ピアノを弾いてる
姉の揺れている背中は
遠く幾何学的な森の中にある

美しく不安定な旋律に合わせて
細い指先が黒髪を揺らしている
鍵盤がガラスのように壊れて
音と共に散っていく(記憶)

ある日
いつもの様に帰宅した姉は
壊れた機械の様に
動かなくなった
遠い森の中に
いつまでも


自由詩 Arabesque Copyright 結城 森士 2007-03-22 22:51:02
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