本物だと感ずるリアリティー
はじめ
精神病院には殺風景なイメージがある
森に囲まれ外界から隔絶された建物 白く何度も塗り直された古い壁 病気が収まっていない精神病患者を入れる隔離された部屋 種類に乏しい木花の庭
ここは外界から見放されていて 院長も穏やかな性格の為か 逆に精神病院と呼ぶに相応しい所かもしれない
小鳥は毎朝ご飯を貰いにやって来る 患者は百人ぐらいか ここに入ると外界から忘れ去られる為か 来る者は食料や医療を運んでくるトラックだけだ トラックの運転手もまた 元精神病患者らしい
ここでは四季は緩やかに変化する それに憧れて容姿端麗の女医がここに転勤してきた
彼女は結婚をしていて 夫とは別居して暮らしている 彼女の両薬指には二つの結婚指輪が挟まってある
初めは夫と喧嘩をしたそうだ こんな辺鄙で不気味な所へは転勤しない方がいいと しかし彼女はそれを断固として拒否した
彼女はここで本当の人生を満喫していると思っている 彼女のことを好きになる人はこの精神病院にはたくさんいるが 彼女の両薬指に光る結婚指輪がその気持ちを抑えてしまう 別に患者を寄せつけない為に両方にしているのではない たまたまだ
ここに入院したばかりの患者は別だが 治療を受けてある程度病状を抑えられている者はみんな朗らかに元気に生活している ただまだ人一倍人を怖がったり 幻聴が聞こえてきたり 物事を深く勘ぐったり 突如やって来る恐怖に脅えているだけだ
彼らはここを?楽園?だと思っている 外の世界は怖いが あらゆるものから隔絶され 深い親しみが湧く壁に手を当て 自分自身を見つめ直す個室に身を浸し 環境の変化を受けやすい正直な木花に囲まれていると 心が和み 今までの地獄の苦しみから解放され極楽を味わうことができる
彼らはここで一生懸命生きているのだ
ここが本当の世界を縮小した疑似世界であることは彼らは十分承知している しかしまだ先の話になるかもしれないが 彼らは確実にまともな人間となって還ってくる そのことを期待して待っていようではないか