いつか空から幸福が降る
銀猫
春の気配に恋、を思えば
こころが羽根を持って
菜の花畑の上を旋回する
拙い愛情が
地球上のすべてだったあの頃に思いを馳せると
おぼろに陽炎は立って
咲き競う花の匂いが
わたしを空の懐ふかく吸い込んでゆく
瑞々しい若葉のしたで
くちづけを交わしたとき
薄目を開けた視界の端に
見て見ぬふりで咲いていた、
菫やシロツメクサを忘れていない
木漏れ日の模様が落ちた下草に沿って
ふたつの鼓動が同じ旋律を奏でるのを待ち
日常の大人を忘れ、ただ笑って戯れながら
ふたつの人生が重なるのを待つ
愛する、とはそういうものだと疑わなかった
初々しいパステルを選んで風景を描けば
ふたつの予感は融け合って
幸福のかたちが生まれる
希望、はそうして現れると
暗黙の理解を分け合った日
春だった
微熱の覚めたわたしがいる
わたしが、いる
けれど
いま、空からきみに逢いたい