マドラー目線
ブルース瀬戸内

あなたは今日からマドラーなのよ。

そう言われて随分と時間が経つ。
私は今、無事にマドれているのだろうか。
自分では判然とせぬ部分が多い。
善くも悪くも他のマドラーがいるから
私も自分の立ち位置がそれとなく分かるところがある。
マドラーとはいえ所詮は相対的な眼差しを必要とするのだ。

上手く言えないのだが、私は存外真っ直ぐだ。
真っ直ぐとは何なのかを思案している方がいたら
私を見てほしい。これこそが真っ直ぐだ。
歪んだ姿勢は歪んだ精神をもたらす。
これは私の信条でもある。

それでも私は無事にマドれているかはやはり不安だ。
しかし他のマドラーは無事にマドれているようだ。
皆にマドれて私にマドれないこともあるまいと
高を括っているところもあるが、
それはプラスチックの表面上の話で、プラスチックの内面では、
どこかでマドれない自分を想像していたりする。
言い忘れたが私は全身をプラスチックに委ねている。

そして突然に私がマドる番が来た。
人生の大勝負はいつも突然にやってくるものだ。
私は珈琲と褐色の恋人がまみれるカップに投入される。
その先は不覚にも目をつむってしまったので
何が起きたのか覚えていない。
気付くと珈琲と褐色の恋人は見事に融合していた。
私は無事にマドれたようだ。

私はマドラー。いい名前ではある。
「ラー」の響きなんて秀逸だ。

しかしこれで良かったのだろうか。
これだけで良かったのだろうか。
私は存在を既定されたが故に楽をしていないだろうか。
達成感で不安の核心を隠してないだろうか。
あるいは生きるとはつまりこういうことなのだろうか。

私は水洗いされて、いつもの場所に逆立ちして戻る。
一人前のマドラーになったことで
世界が少しつまらなくなった気もする。


自由詩 マドラー目線 Copyright ブルース瀬戸内 2007-03-21 12:47:18
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