現代詩のマークシートテスト その2
木棚環樹

設問?
次の中から現代詩の詩人を選びなさい(複数回答可)
1) 川崎洋
2) 谷川俊太郎
3) アントニオ猪木
4) 銀色夏生

設問?
次の中から作詞家を選びなさい(複数回答可)
1)川崎洋
2) 谷川俊太郎
3) アントニオ猪木
4) 銀色夏生

設問?
次の文のカッコに入る言葉を選びなさい
詩はエッセイやコラムと違い(A)、
通常(B)と呼ばれる論理で構成される。

A)
1) 改行が多く
2) 空想的で
3) リズミカルで
4) 文語的で

B)
1)詩論
2)定型
3)ファンタジー
4)美学

設問?
次の中から詩の技法として正しい物を選びなさい(複数回答可)
1) 本歌取り
2) 替え歌
3) エチュード
4) プレリュード

設問?
次の詩を高度な物から順に並べた時の順位を選びなさい
1)孟浩然(モウコウネン)作「春眠」
  春眠暁を覚えず
  処処啼鳥を聞く
矢来風雨の声
  花落つること知りぬ多少ぞ

2) 作詞者不詳 ジャン・ジャック・ルソー作曲「むすんでひらいて」
  むすんで ひらいて
  手を打って むすんで
  またひらいて 手を打って
  その手を上に

3) 作詞作曲スティーブン・フォスター「オールド ブラック ジョー」緒園凉子訳

  若き日 はや夢と過ぎ
  わが友 みな世を去りて
  あの世に 楽しく眠り
  かすかに 我を呼ぶ
  オールド ブラック ジョー
  我も行かん
  はや 老いたれば
  かすかに 我を呼ぶ
  オールド ブラック ジョー
  我も行かん
  はや 老いたれば
  かすかに 我を呼ぶ
  オールド ブラック ジョー
  
4)石川啄木作「飛行機」

  見よ、今日も、かの蒼空(あをぞら)に
  飛行機の高く飛べるを。

  給仕づとめの少年が
  たまに非番の日曜日、
  肺病やみの母親とたった二人の家にゐて、
  ひとりせっせとリイダアの独学をする眼の疲れ……

  見よ、今日も、かの蒼空に
  飛行機の高く飛べるを。
〜〜〜〜〜〜〜〜
解答用紙
   1234
設問?
   〇〇〇〇
設問?
   〇〇〇〇
設問?
A) 〇〇〇〇
B) 〇〇〇〇
設問?
   〇〇〇〇
設問?
1) 〇〇〇〇
2) 〇〇〇〇
3) 〇〇〇〇
4) 〇〇〇〇

〜〜〜〜〜〜
前回の現代詩のマークシートテスト回答例
   12345
設問?
1)  〇〇〇●
2)  〇〇●〇
3)  ●〇〇〇
4)  〇●〇〇
設問?
a)  〇〇〇●
b)  〇〇●〇
c)  ●〇〇〇
d)  〇●〇〇
設問?
   〇●〇〇
設問?
   〇●〇〇
設問?
   ●〇●●〇
〜〜〜〜〜〜
解釈と解説
設問?ジャンルの異なる四つの詩を並べて、どのジャンルの詩がどのぐらい偉いのかを問う問題です。出題する時、童謡の詩、十代の少女が授業中にノートの端に書き込むような詩、文語体で書かれた権威のありそうな詩、ジェットストリームや世界の車窓からで流れそうな、西洋風マダム向けの横文字オシャレポエムなどと書くより、具体的な詩文そのものを書いた方が面白いだろうと思って、まず詩を書くところからスタートした。
最初は、四種類の詩を選んできて引用すれば良いやと思ったのだが、著作権がらみで現代詩フォーラムさんから叱られても面倒だなぁと思い、ある程度自作した。自作した分、下手だし出題の意図が分かり難くなったかもしれない。3)などは自作じゃなく盗作・パロディーだろと言われそうだが、出題者の意図としては文語体の古くて権威ありそうな詩の典型だと思って見て欲しい。

1が特撮ヒーロー物の主題歌。2が十代の頃に書いたポエム。3が古くて権威のありそうな詩。4が大人向けのオシャレもどきポエムとして、回答例は偉い順に3421。人間は年齢と共に成長するという仮説通りの回答です。

設問?はネット詩というpoemoque(ポエニーク)のいとうさんの用語を持ってくることでジャーナリスティックな感じになるかなと。いとうさんがネット詩VS活字詩という用語で、詩誌誌上で活字詩批判・活字詩の相対化をしたのは意図としてよく分かるが、世間の認識としては、活字の現代詩がネット詩より偉いだろうし、現代詩文庫周辺の人にとっては、ロックやJポップの歌詞も現代詩より下だろうから、一応世間的な認識として活字詩・歌詞・ネット詩・朗読詩という回答になった。朗読詩に到っては存在そのものも知らない人の方が多いと思う。朗読詩について知りたい人は私のHPのメルマガでも読んで下さい。

設問?は国語の教科書的には新体詩抄から始まったということで2で良いのですが。
ポエムを書き始める人に、小説家志望だけど長い文章は書けないのでまずは短い詩から始めた。とか言う人が多くて、「文学極道」の主催者ですらライトノベル作家志望で詩を書いていたりする。詩というのは小説を書こうとする時に、書き切る自信がない人がやる短くて初心者向けの小説なのか?
詩の起源をさかのぼると、日本では和歌・長歌・連歌と基本歌で、ヨーロッパだとコロス(コーラスの語源。合唱隊)が歌うギリシャ悲劇とかオペラとかミュージカルなどの歌劇だったりする。つまり歌の歌詞のことを詩と呼んでいて、一番・二番・三番と歌詞があれば、同じメロディーに言葉をはめていくので、定型詩で無くても音数は同じになるはずなのだが、なんで詩の向上・切磋琢磨を呼びかけている文学極道においてすら、詩と小説の区別すらつかないのだ?
という疑問を持ったときに。和歌や短歌は歌で良い。漢詩・新体詩(西洋詩の日本語訳)といった詩は、外国語の歌の歌詞を訳す時に、原曲のメロディーに乗せて歌える音数で訳すのが歌で、メロディーに乗らない意訳が詩だと解釈できる。そして、外国語の元歌がない詩のことを現代詩と言ってるのではないかと。Jポップの歌詞を真似てポエムを書いている中学生が歌えない歌詞を書いているのと同じじゃないかという批判を込めたのですが。
通常、近代以後の定型じゃない詩を現代詩というので3の口語自由詩こそ現代詩の起源だとも言えるし、万葉集は新古今和歌集なんかと比べて、まだ和歌の定型が確立されてない時期の歌集なのである意味非定型であり、現代詩の起源だと言えるかもしれない。

設問?は盗作がらみのネタで、設問?への伏線です。
引用は、法的には認められていると思うのですが、何でも三島由紀夫の文章からの引用は一行たりとも許可しないと遺族の方が言っているらしくて(鴻上尚司が書いているドン・キホーテのピアス参照)、同時に言葉を単語レベルで分解した時に、過去からの引用でない単語が果たして言語として認められるのかという問題もはらみつつあります。カット・アップはバロウズとかシュールレアリズムで有名ですが、既成の文章をハサミで切ってバラバラにして並び替えるという手法ですね。作者・インスピレーション・創作といったものの特権性を批判する意味合いがシュールレアリズムにおいては強かったと思います。オマージュは先行する作品に対する敬意として、先行する作品に似せて作る行為。インスパイアは先行する作品に対する影響の下で、先行する作品にインスピレーション(霊感)を受けて作った作品ですね。いま、オマージュやインスパイアは盗作を耳障り良く違う言葉で言い表しただけというイメージですし、引用も批評の中では普通ですが、詩の場合、本歌取りとかもっと違う呼び方で呼ぶので、詩の技法としてはカット・アップのみにしてみました。

設問?は安倍なつみ写真集「ナッチ」上で安倍なつみが書いたとされる詩が盗作だと指摘されて回収騒ぎになったという話題から、ある意味「ナッチ」は写真集でなく、詩集として世間に認知された物だと解釈してナッチは詩集。詩人と言ったときに、現代詩手帖・現代詩文庫系の人達をイメージする人と、326・相田みつを・銀色夏生・三代目魚武系をイメージする人たちとの文化的断絶がすごくて、両者が詩について互いに会話する時の共通の語彙がない状況が詩的で面白いと思う。前者を活字詩・現代詩として後者をネット詩・ポエムとしたとき、私は両者とはまた別の朗読詩の位置におそらくいるので、その立場から歌える詩は詩で、歌えない詩は詩じゃないとすると、326(ナカムラミツル)著「歩み出せない君に53の羽言葉 音楽映画館326」は音楽映画館だから、326が出したCDの歌詞集だと思うでしょ?実際326はCDを出しているのだがこちらは、ヒットチャートのシングルCDを聴いてインスパイアされて作った詩集なので、歌えない詩に入れた。甲本ヒロト著「日曜日よりの使者の詩」はロックミュージシャンの歌詞集など現代詩ではないという考え方もあって、その辺への問題提起として出した。荻野知一著「平家物語」は琵琶法師によって弾き語りされた平曲の完成形らしい。よく知らないが、荻野知一は江戸時代の人らしい。宇佐美斉訳「ランボー全詩集」は歌えないから×にした。西洋の権威ある詩の翻訳という典型的な現代詩を入れることで、ロックの歌詞やアイドルの写真集、日本の古典芸能と並べて、何が詩なんだろう?という問題提起。訳じゃなきゃ、歌えねぇーよという否定が出来なくなるし、堀口大学訳や小林秀雄訳では訳者自身に権威がありすぎるし、文章に文語的なリズムがあり、下手すると歌えてしまうので、あえて一番新しい訳を選んだ。ランボーは、西洋の文学史に名前を残している詩人の中では一番若書きの人で、読むと良くも悪くも若く、ロックの歌詞とあまり変わらない。酒やタバコや麻薬やセックスの素晴らしさについて大げさに謳っていて、それらを味わったことがないか、味わった経験が少ない人が書いているのがよく分かる。それらの物が解禁されて大人になることに対する憧れがあるのは子供の証で、中年期になればむしろ健康のために禁煙や禁酒をしはじめる。

「現代詩のマークシートテスト」の発想の元には、ヨーロッパの国では、義務教育で哲学を教えているらしいとか、入試試験の必須科目に哲学があるとか聞いて、もし哲学のマークシート試験があったら、カントの思想を次の四つの中から選びなさいとか、聞かれるのかなぁ、カントの思想って、一行にまとめられて、しかもマークシートで選択できるんだ?とか思ったのがきっかけで、日本でも哲学は選択科目で倫理として取ることが出来るし、大学入試の科目としても選べるはずだ。モンテスキューの思想を次の中から選びなさいとかやったような気がする。

現代詩フォーラムで哲学のマークシートをやってもしょうがないので、現代詩にしてみたわけですが、まあ、出題者側としては当然、そもそもマークシートで正しい答なんて選べるのか?という疑問からスタートしているので、上のは回答例であって、正しい答でもなければ、模範解答でもない。でも実際、国語の授業で現代詩の問題とかあると言えばありそうだし、そもそも唯一絶対の正しい解釈があるのかとか、このとき作者はどう思ったでしょう?という問いに作者が間違えた回答をしたという話は高橋源一郎や野坂昭如などがエッセー&対談で書いていたりする。


散文(批評随筆小説等) 現代詩のマークシートテスト その2 Copyright 木棚環樹 2007-03-21 04:05:37
notebook Home 戻る