ところで俺はだてに墓標を背負ってるわけじゃない
今日も墓標に風で飛ばされた紙切れがうまく引っかかった
細かい字で何か書いてある
読んでみた
「君に宛てて」(恋愛詩の習作)
やあこんにちは
君の書く詩は
歌詞っぽいね
甘く切ないフレーズは
お菓子っぽいね
出会いや別れや孤独を書けば
君はとてもうまい
君のお菓子は
いつ食べてもうまい
でもね
そろそろ飽きてきた
せつないとかかなしいとかさみしいとかくるしいとか
わびしいとかむなしいとかひとりだとかこどくだとか
きみのいないせかいとかふたりだけのせかいとか
あなたのいたきのうとかあなたのいるあしたとか
であいとかわかれとか
ぐうぜんとかうんめいとか
すきとかきらいとか
だきしめるとかきすとか
それに
春とか夏とか秋とか冬とか絡めたり
花とか海とか月とか鳥とか絡めたり
もう飽きたかな
あっちのお店には
何種類もの素材を重ねて出来ているチョコレートケーキがある
君はまだ
チョコレートを溶かして型に入れているだけに過ぎない
それだってお菓子さ
甘いし
うまいよ
だけど僕は
もう他へいくね
ごめんね
また会えたなら
きっと君はいまよりもっとずっと
おいしいお菓子を作れるようになっているんだろう
それまではさようなら
だいすきだったよ
君と
君のお菓子
ほんとうに
だいすきだったんだ
また
会えるよね?
これ・・・恋愛詩なのか?
だとしたら
甘く切ないフレーズに飽きたといいつつ
そういう類の言葉ばっか使ってるじゃねえか
なんか最後は思い切りがよくねえし
結局は相手のことや相手の書く詩が好きってことなんだろうなあ
男とは哀れな生き物だ
こんな回りくどいことをしなけりゃ好きだの一言すら言えない
ところで俺はだてに墓標を背負ってるわけじゃない
悩みにうち沈む若者がいたら
もっと悩めとアドバイスしてやるぜ
俺はその紙きれを細かく千切って風に飛ばした
君に宛てた手紙が君に届く可能性は全くなくなったが
そういうことは
直接言うもんだ