はじめ

 僕は君を見ていた 君は夕日を見ていた
 凄い早さで燈黄色に焼けた雲が流れていく 君は美しい
 「この丘、夕日がとても綺麗ね。なんだか心が洗われるよう。海に沈んでいく夕日を見たのは生まれて初めてだわ。神秘的ね。それともこの場所がそう思わせているのかしら。あなたの大切な人が眠っているんでしょう? 私とは対照的な子。あなたはあの子を想い、私はあなたを想っている。三角関係ね。このままずっと私の想いはあなたに届かないのかしら? それともいつの日か報われる日が来るのかしら? 今のあなたにそれを答えることができる?」
 「分からない。僕は君を想っている。今見ている風景が永遠に心に残りそうだよ。風が少し強いけど素敵な所だね。君が眠る場所には最適な場所だよ」
 潮の香りが草の匂いと混じって僕に現実感を強く持たせようとする
 「あなたのこと愛している。前世の私よりも来世の私よりも。けれどあなたはあの子がいいのね? どうしても忘れることができないんでしょう?」
 君は涙した 僕は涙で君の服が汚れるのを気にした
 「そうだ、僕は君を愛しているよ。例え姿形が変わっても君は君だし、君を愛し続けるよ。この丘が無くなっても。この世界が無くなっても。この身が果てようとも。心臓はずっと生きていて、君を想い続けるんだ。だから、君はこの心臓に触りさえすればいい。そうすれば、君は僕と一緒になることができるんだ。君は、永遠を手に入れることができる」 君は彼女の姿に変わった 辺りは暗くなり 夜空が現れた 満天の星空だ
 「あなたにこの姿で会うことができて良かった…あなたの記憶が私を呼び起こしたのね。とっても新鮮な気分。でもこの姿でいられるのは僅かでしかないわ。あなたが私のことでもう苦しまないように最後にこの姿になって私の記憶を消すの。そうすればもう苦しむことはないでしょう? だから、最後に私に言いたいことはある?」
 僕は大粒の涙を流しながら言った
「君を愛せてよかった…」
 君はうん と頷き にっこり笑ってこう言った 「さようなら」
 僕も嗚咽を漏らしながら言った 「…さようなら」
 君の姿はだんだんと薄れていき ついには消えていった
 僕はどうして泣いているのか理由が分からなかった
 海の遙か向こうで 漁船の光が光っていた


自由詩Copyright はじめ 2007-03-20 05:41:20
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