森は暗く木々はみどり。
佐々宝砂

音を立ててブナの木は水を吸い上げる。
地下の滝は光を求めて上昇する。
森は暗く木々はみどり。
凡庸な言葉が指をすりぬける。

緻密な理論はブナの木に関わりがない。
ブナはただ立っている。
ねじ曲がった枝で空を差して。
夜がくるとブナはこっそりと、
たっぷり吸い上げた水で河をつくる。

     ブナは共食いをする生き物だ。
     ブナの幼木にとって、
     枯れたブナは格好の食い物。
     森は生きている。
     だから新陳代謝をする。

ブナの木は考えない。
光があれば貪り、
水があれば吸い上げる。
洞のできた幹に何かが住み着いても、
まるで苦にしない。

虫はいつも蜜の在処を知っている、
ブナの木は気前のよい大家だ。
冷たい風吹くこの季節が過ぎれば、
ブナの木は賑やかな店子にあふれるだろう。



自由詩 森は暗く木々はみどり。 Copyright 佐々宝砂 2007-03-19 22:53:55
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