アリのシアタールーム
ブルース瀬戸内

私のことを少し話そうか。
私はね、アリなのだよ。
黒くてね、節足で、勤勉だけが取り柄のね。
そりゃ甘いものには目がないさ。
生活は甘くないからね。
均衡を保ちたくなるのさ。

私のことをもう少し話そうか。
私はね、自分の作った巣で迷ってしまってね、
そう、シアタールームにどうしても辿り着けなくてね、
癇癪起こして地上に出てきたというわけさ。
自分の作ったシステムに自分が拒絶されることって
人間でもあるそうじゃないか。
まあでもね、こうして爽やかな風に当たっていると、
そんなことはどうでもよくなるんだよ。

私のことをさらに話そうか。
まあ私の身の回りのことになるが、
私の盟友のアリはね、
一昨日、風に乗ってアリを越えようとしたんだ。
アリが何かも分かってなかったのにだよ。
ロマンスがね、明晰な思考を奪ったってわけさ。
まあ生物にはよくあることさ。
生物学的に説明がつくんだよ。
しかし惜しい奴を失ったよ。

私はね、これからシアタールームを探しにいくよ。
なにせ私の巣だ。
なあにさっき右に曲がったところを
左に曲がればいいだけなのさ。
本意ではないがね。
本意ではないがその先がシアタールームなはずだ。
一つ言っておくがね、
10分後に再び私が地上で風を浴びていても
声をかけないでほしい。礼儀としてね。

それじゃ、巣に戻るよ。


自由詩 アリのシアタールーム Copyright ブルース瀬戸内 2007-03-19 22:08:40
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