空港の横
水町綜助
ひかりが刺す
季節を切り取って
差し出す
ひかりがさす
まぶしいから
細めて
睫に燐光がいくつか
引っかき傷もいくつか
ついて
それできみの輪郭がようやくはっきりした
してくる
ふたりで晴天の路地を走って
鉢植えのあさがおをかすめて
強いひかりが切れ切れにトタン板をぶったたいて
君は驚くから
たまに倒してしまうかもしれないけど
割れても
きにしないで
あれが手に
がれきを持って
追っかけてくるから
もっとはやく走って
もっとわらって
それで空港まで出たら
柵があるから
のぼって
たぶん途中で落ちるけど
はらえば服から砂埃が舞って
巻き上げられて空をよごすので
ひとつの切実として受けとって
ぼくは黙祷と煙をくべるから
笑ってください
まだまだ寒いよ
埃は高くまでのぼるね
どうもみていると
他人事でもないようで
だからなんだよと言いたくなる青空が
田舎の海のようで
やっぱり青いから
だからなんだよと文句のひとつでも言いたくなる
ぼくはコートのポケットに手を入れて錆びたトラ柵に座って
キイキイいう安全第一とみどりの十字が次第に気に入ってきて
そこで
きみが
昔飛行機の墜落した草むらで遊んでいるのを見ている
耳の中に風が巻いて
ずっと音が聞こえている
草の音
靴の音
鉄の音
さびたひかりの音
空耳
それだけ
それだけってひとりで笑ってると
きみは少し離れたところにぼんやり突っ立ってて
たくさんひとが死んだ場所で
逆光のきみの髪の毛は金色に燃えてる
風でめちゃくちゃになって
絡まりながら
燃えている
何本も何本も
風に騙されて空に持ち上げられて
そうしながら焼かれて
そんなことをいつまでもいつまでも続けていつまでもいつまでもそんなことに気づかないから
わからないから
こんなとこに来るはめになってる
空港からごうごうと飛行機の鳴き声がする
エンジンの爆発する音が聞こえる
それで青い宇宙の襞がふるえて
ほらパックリと口を開けて
恥ずかしがってる
それで手を伸ばして
君の髪の毛を使って
綾をなして
とじようとしてる
燃えた髪の毛で
飛行機は何人もの乗客と貨物を乗せて
急いで飛び立つ
襞の穴をそこを目指して
頭の後ろから聞こえてきていたような轟音が
だんだんと遠ざかっていく
銀色の機体は高度を上げつづけ
小さくなって
それでひかる楔となって消えた
僕は手を振っていた
トラ柵のうえから
キイキイ鳴く上から
てをふりつづけた