「 窓辺の日射し 」
服部 剛
ひとりの部屋で
哀しい唄を聞きながら
歌詞を机にひろげて読んでいると
窓からゆっくり日は射して
机を覆う影は
波のようにひいてゆく
*
窓の外を見ると
鞄を背負い
立ち止まる旅人
川の畔に重荷を降ろし
膝を抱え
叢に戯れる
二羽の蝶々を眺めている
川面は
春風に散る
桜吹雪
ふたたび
鞄を背負い
立ち上がる旅人
淡い夢を失えぬまま
名も無い季節へと
歩き出す
*
ひとりの部屋に
流れていた哀しい唄が終わると
時計の秒針の音は響き
長い間
引き出しの奥にしまっていた
色褪せた表紙の日記を
机の上に置く
( 探していた愛が
( 闇へと姿を消したあの日
( 絞り落とした涙で
( 滲んだいくつかの文字
机の上に置いた
色褪せた日記はひらいたまま
哀しみにそそがれる
窓辺の日射し
あの日の涙が乾いた頁に
ひかり
ふくらんでゆく