菜の花畑
九谷夏紀



いつも電車の中から眺めていた
いちめんの菜の花畑
あこがれは日々つのって
あの黄色に身をうずめたい
私の何かが変わる予感がするから

電車は目的地まで
定めのままに運んでくれる
だけど今日こそは乗り捨てるよ
初めて降りる駅
なんとなくの方位を頼って

野生の菜の花畑だから
道標になるものなんてない
だから人に尋ねようもない

あのあざやかな黄色を求め
はやる気持ち
思った以上に遠くて
回り道や行き止まりばかり
少し向こうに見えているのに
出会えないまま

気付いたら海に出ていたよ

毎日電車からこの海も眺めていた
近くまで行ってみたいと思っていた
あの風景はどのあたり
道が軽やかに平らに続く
私は楽になって
心地よくて
目には見えない黒いもやもやとした塊が
いつの間にか
吐き出ていた

海はひろいから
泣いている私も
怒っている私も
そのままでいさせてくれる
ここでひとときを過ごす人たちも
私をほうっておいてくれる

波の音は静かで小さく
けれども力強く内面に響くから
私が抱え込んだ諸々の事柄にもその波動が及んで
細かくなって
まるくなった

いつもより涙を伴わないのは
この海の景色と
この波の音が
私をからっぽにしてくれるからだ

偶然出会ったこの海に私は救われたんだろう
また来るかもしれない



菜の花畑が私の変わらぬ行き先



海を目の前に
私の心は菜の花の黄色を映し出している



自由詩 菜の花畑 Copyright 九谷夏紀 2007-03-17 14:13:32
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