おとうさーん
一絵
うちの高校の美術教師(以下、じいさん)がある男の話をしていた。
その男は美術予備校の教師に
『君は武蔵野森に受かる実力を持ってるよ、頑張れば』
と言われそれを信じたそうな。
男は受かるはずも無いのに、毎年、毎年武蔵野森を受験した。
一年、二年、三年、その年も次の年も
受けた、落ちた、受けた、落ちた
じいさんは鼻で笑いながらその男の話をした。
「武蔵野森じゃなくて他の所受けば受かるのにねぇ」
その男はもう31になっていた。
とうとう、男はあきらめ、他の大学を受験した。
そしたら簡単に通ったそうな。
「その人はその学校で10も年の離れた子達から
”オトウサン”と呼ばれていたらしいですよぉ、フフッ」
じいさんは恰幅のいい腹をさすりながらいやらしく笑って呟いた。
「みなさんも、受験するときは考えるようにぃ。
その人みたいになっちゃうでしょぉ」
じいさん、笑う、笑う、笑う、
200万するらしいじいさん作の絵の前で。
誰かが窓を開けた。風が吹いた。生ぬるい暖房の風が何処かへ消えて。
オトウサン、私は呟いた。
じいさんはきっと、クラシックしか聴かずに育ったんだろう。
10年もの間浪人生という肩書き背負っていたオトウサン。
10年もの間、自分を信じて、何かを追っていたオトウサン。
じいさん、オトウサンはお前が思っているよりもカッコイイ男だぜ。
オトウサンはきっと資本主義なんて言葉知らねえハズだ!