匂い立つ四月
atsuchan69

風が死んで、
また一人、また一人倒れ
アジアでは奇形の動物達が生まれ
生まれては殺されて

蒸せるような夏
君が棄てた女
――は、ブラウス姿で
ごろり仰向けになり
天井を見つめたまま動かない

やがて秋が来て
蟋蟀が鳴いても動かずに
冬、雪に覆われた小屋の中で
その瞳はとうに生きることを忘れていた

やがて春になり
野も山も、
さかんな芽吹きに覆われてさえ
女は息もせず
天井を見つめたまま動かない

風が死んで、
また一人、また一人倒れ
アジアでは奇形の動物達が生まれ
生まれては殺されて

ひとつ、
一つ眼の子豚

ふたつ、
二つの頭を持つ蛙

みっつ、
女が産む筈だった三つ足の子供

四月――
匂い立つ、
草木の叫び

絶望の淵に追いやられた
言葉にもならない赤い声たちが
色鮮やかな火花を散らして
産業廃棄物とともに棄てられた、
すべての黄色く痺れた唇に
「成就せよ、と囁き
また一人、また一人倒れ

そして盛んに芽吹こうとする
言い知れぬ力が森から押し寄せてくる、
背後には南風が、のどかな陽射しを連れ
花弁を散らして見渡すかぎり野も山も匂い立つ

春爛漫の景色に
女は死絶え、ふたたび春に埋もれ
ただ、その瞳に君を映し
白いブラウスは土色に汚れて

摘まれ、踏みじみられた命の
その声にもならない叫びは、
腐敗した肉の
君が棄てた女、そのもの










自由詩 匂い立つ四月 Copyright atsuchan69 2007-03-17 02:16:34
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