お気に入りの棺桶
なかがわひろか
子供の頃おねだりして買ってもらった棺桶に
私は宝物を詰め込みます
等身大のお人形
お気に入りのドレス
ママが毎晩読んでくれた可愛い絵本
最後に私が入る場所を空けて
焼かれ灰になる日を心待ちにしています
眠る前に今日まで生きた日々を指折り数え
指が足りなくなったら
ママの手を借りて
それでも足りなくなった頃に
私は眠りにつきます
朝目が覚めたとき
少しの失望が頭をもたげます
けれどそれは死への新しい一日の始まりです
私は秒読み始める空気を体いっぱいに吸い込んで
大好きな花を摘みに行くのです
いつもの草原で
一人の紳士が私に声をかけます
きれいだね
私はにっこり笑って答えるのです
ええ、きれいです
柔らかな芳香に包まれる
そんな私を想像して
私はまたにっこりと笑います
紳士はそんな私の頭を撫でて
明日また会おうと
優しく微笑みそっと彼方に消えて行きます
雲の切れ間から太陽が光を差し込みます
私はその明るい場所へ行き
今日の命を感じます
私は生きている
そして改めて知るのです
故に私は死ぬのだと
頭の上を一羽の鳥が飛んでいきます
私はその鳴き声にレクイエムのメロディーを乗せながら
お家へと帰ります
(「お気に入りの棺桶」)