噛めば噛むほど味の出る歯
はじめ
最愛なる彼を亡くした彼女はその悲しみを詩で表した
彼女は詩人だった
絶望感や悲哀感を彼へのストレートな想いで綴った
彼女の詩を読んだ人々は皆涙した
反響が大きくなるにつれ彼女の人気は上がったが気持ちは塞がるばかりだった
彼女はひたすら書き続けた
書けば書くほど彼への想いが湧き上がるのを必死に押さえながら
その果てに 彼女は彼の姿を見た
誠実で明朗 端正な顔に長身な姿は彼そのものだった
彼女は両手を広げて感泣した
二人は抱きしめ合い 久々の再会に身を浸らせていた
「あなたにまた出会えるなんて…私夢でも見ているのかしら…」
「夢じゃないさ。ほら、体だってピンピンしてる。トラックに轢かれた怪我なんてすっかり直っているんだ」
「素敵…また、私達はあの頃と同じように一緒に暮らしていけるのね。また、一緒に幸せを味わうことができるのね。さぁ、帰りましょう!! 私達の家へ!!」
「ごめん。それはできない。僕はもうすぐ帰らないといけないんだ。君の知らない世界へ。僕は君が僕のことや詩のことでこれ以上苦しまない為に君に会いに来たんだ。僕はそれが気がかりで君に会いに来たんだ。お願いだから、もう苦しまないで。君には分からなくても僕はいつも君の心の中にいる。だから、安心して詩を書いてよ。君の詩はあんな詩ではないはずだ。もっと純粋で、鮮やかなものだ。それで僕は安心して帰ることができる。…じゃあ、僕は行くよ。今もそしてこれからも、君を愛してる。さようなら」
「えぇ…、ありがとう、さようなら…」
彼は去っていった そこで彼女は意識を覚ました
それから 彼女は今までのスタイルを止め 元の彼女のスタイルに戻った
今までよりも人気は下がったが 彼女は幸せに暮らしている