線香花火
なかがわひろか
湿った線香花火
火はすぐ消える
そんなのないや
勝手に夏を終わらせた
思い出橋の上で
歌を唄って
お上手ね
彼女は確かにそう言ったのに
ぽとりと落ちた火の玉に
少し地面が火傷する
ほんの小さな大地の痛み
それはささやかな夏の証
凍りついた橋の上で
彼女は一人スケートを楽しむ
そこには花火の跡があったのに
彼女は気づかぬ振りで滑る
上手だね
皮肉を込めて僕は言う
勝手に去って行った夏と
それでもきれいな雪と君に
少しの嫉妬を込めながら
湿った線香花火
降り積もった雪の上
冬にも主張するように
雪の中をすり抜ける
ジュジュジュ
ジュジュジュ
(「線香花火」)