セレモニー
結城 森士

透明な流れやその匂いが
蒼い夕暮れに僕を連れて行ってくれる いつも
繊細な指先やその動きが
貴方の人生を物語っているように思える
目の前で貴方がグラスの水を飲む時に
水が煌めいて波を打っていたこと
点滅する貴方の涙は
僕をもう一度此処へ連れてきてくれるものだと信じていた

蛍光燈の柔らかい光が外の景色と反比例し始める頃
僕達はお互いの物語を聞くことをやめていた
沈黙の間はベランダを見つめている
僕達の心はお互いに暗くなっていく
炎が溶けていくように ゆっくりと 炎が空に溶けていくように

感情はいつまで経っても起動しなかった
窓硝子がゆっくりと割れていく 妄想なのだろうか
窓硝子は次第に音を立てて割れていく
あの日という瞬間は 僕達の目の前で
砕け散っていった ゆっくりと

去り行く日は 儀式を通過しなければならなかった
僕達はお互いに暖かい光を感じることは出来なかった
僕達は僕達の生きるべき炎を奪わずに入られなかった
涙が炎に落ちたとき

もう二度とそれぞれの影は交差しない
  お互いの物語を語り合うことはない

散乱しながら煌く硝子の残骸
グラスに乱射する水の屈折
炎の中を溶けていった涙
若草の匂い
涙が炎に落ちたとき
僕を締め付ける

それは儀式だった
それは僕達の儀式だった
僕達は光の中を駆け抜けていった
それは儀式だった



散文(批評随筆小説等) セレモニー Copyright 結城 森士 2007-03-15 13:14:36
notebook Home