新春自縛霊
はじめ

 踏切前のジュースの自販機の横にいつも君は立っている
全身の血を抜かれたような青ざめた顔でじっと僕を見ている
 何か懇願しているように見える
 僕は足早に立ち去る しかし君は視線で僕の腕を離さない
 しかたなく僕は君に歩み寄り 溜め息をついてこう話す
 「今回は何? 話したいことがあるなら早く言ってよ。彼女と初詣のデートの約束してるんだから」
僕はイライラ気に聞く
 するとプールに入れない子供のようにブルブル震えながら君はこう切り出した
 「う、うんとね、僕もみんなが行っている、その、初詣っていうものに行ってみたいんだ…君に連れて行ってもらえないかなぁ…」
 「無理だよ無理!! 君ここの自縛霊じゃん!? 君はここに怨念があるんだろ?? しかも今日は君の一周忌。とっても大事な日なんだから、初詣になんか行ったら縁起が悪いよ。僕の彼女だってきっと君を見ただけで失神するし。…つーか、僕しか君のこと見えないんだっけ?? つーか、君は自縛霊だから動けないでしょ!! 何言ってんの!! 駄目だよ駄目!! あっ、踏切が開いた!! もう時間無いから僕は行くよ。今年も宜しくお願いします。じゃあまたね」
 請うような視線を振り切って踏み切りを渡ろうとすると、強烈な金縛りが全身を駆け上り 僕はその場で背筋を伸ばして硬直した
 「お願いだよ!! 僕も初詣っていうものに行ってみたいんだ!! 僕、両親が共働きで、友達もいなかったから初詣なんて行ったことがないんだ!! 僕の気持ち分かってよ!! 今日、成仏してもいいから!! この場所にもう恨みなんて持たないから!! 初詣に連れて行ってよ!!」
 僕は大粒の涙を流している君のことを分かったよ連れて行ってあげると言って宥め 成仏してもらった
 踏切を渡る 僕の背中には背後霊が憑いている…


自由詩 新春自縛霊 Copyright はじめ 2007-03-15 04:29:51
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