夜の庭、ハナアルキの棲む
角田寿星


父さんは
今週も仕事で行けなかったが
「きょうはどうぶつえんで
 きょうりゅうとおほしさまをみてきたの」
少々想像力を要するユキの報告をききながら
夕暮れ
隣家の妹夫婦 ヨコヤマ家へ
花火のお呼ばれにいく

ヨコヤマ家の庭にはもう
従兄弟のチビどもがわらわらと勢揃いして
日没を待ちきれずに
花火をはじめてしまう

暗がりゆく草むらの向こうで
かさこそと足音がきこえたり
土の瘤のうえ 小動物がふたり寄り添って
ぼくらの花火をうっとり見上げてるけど
誰ひとり 気にも留めない

色の変わる花火 レモンのにおいがする花火
チビどもの花火ときたら
情緒も仁義もへったくれもなく
スカートを焼こうとしたりロウソクを全滅させたり
しまいには花火に飽きてきて
ユキにいたってはひとりでお店屋さんごっこをはじめて
それにも飽きてとっとと帰宅してしまった

父さんは
まだ 花火をしていたいんだ。

ヨコヤマ宅で跳ね回るチビどもを尻目に
親父たちだけで
夏の庭に取り残されて花火をしている
親父たちは不良なので
アイスを食べながら花火をしたり
タバコをすったり
線香花火を最後の一本までやり尽くす
「わびしそうだね」
「いや けっこう楽しんでるよ」

すっかり闇に溶けた草むらの向こうは
ただ風が吹きぬけるだけで
土の瘤のうえ もう判別もつかない
ふたつの屍骸が泥にまみれてるけど
誰ひとり 気にも留めやしない


自由詩 夜の庭、ハナアルキの棲む Copyright 角田寿星 2007-03-14 23:14:15
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