操縦不能
狩心
僕には ヒューマンストーリーが足りない
僕には ラブコメディが足りない
僕には サスペンスとホラーとアクションに彩られた SFしか残されていない
私はなぜ 氷のように固まる事が出来ないのか
私はなぜ 水のように流れる事が出来ないのか
私はなぜ 水蒸気のように姿を消して・バラバラに拡散する事が出来ないのか
氷(H2O)→ 水(H2O)→ 水蒸気(H2O)
氷(H2O)← 水(H2O)← 水蒸気(H2O)
なぜ、私は化学式で表す事が出来ないのか
血 滴る 生物は 泣く 涙 燃える 炎
血 滴る
血が滴っているので 私は滴る事が出来ない
涙 泣く
涙が泣いているので 私は泣く事が出来ない
炎 燃える
炎が燃えているので 私は燃える事が出来ない
役割は常に私の外側に存在しているので
私だけが置いてきぼりを食う事になる
私はそんな肉体である事に憤りを感じながら
操縦席のレバーに手を掛ける
そのロボットは
右手と左手の長さが違うので 物を運ぶのが困難である
右足と左足の長さが違うので 体勢を崩すのである
右足と左足が張り付き 一本の足になり 両手を広げながら
案山子のように飛んで見せる スプリングマシーンである
右顔面と左顔面が かなりずれているので
頭の断面からは 脳味噌が溢れ出し
顎の断面からは 唾液が流れ出すのである
そして ありとあらゆる生殖器が 大きな口を開き
それらを噛み砕き 飲み込み 消化し 排泄し 原形も留めない メリーゴーランドである
上半身が常に後ろ向きで 下半身が常に前向きなので
赤ちゃんが誕生する「オギャア」という奇声と共に
へその緒の辺りから亀裂が生じ お母さんの名前を呼び始めるのである
右手が平泳ぎからクロールへ クロールからバタフライへ そしてついには 背泳ぎに進化した時に
左手がストレス性から来る蕁麻疹とアトピー性皮膚炎で 同時に発生する自爆テロである
右足がひとりでスキップをしたがり
左足がみんなでサッカーをしたがるので
他者も不在・自己も不在という、奈落の底へ滑り落ちるのである
右半身と左半身が かなりずれ始めて
一人の人間が二人になろうとするので 死んでしまうのである
上瞼と下瞼が夢の中で恋をしたので 目が安らかに閉じるのである
心は肉体の奴隷ではないのだから
すでにドアが閉じているのに さらにドアを閉じるのである
ドアを閉じている最中に ドアを開くのである
すでに靴を履いているに さらに靴を履くのである
靴を履いている最中に パンツを脱ぎ捨てるのである
パンツの匂いを勢いよく吸い込んで 自らの存在を確認するのである
パンツの匂いを勢いよく吐き出して 少しだけ世界が広がるのである
右手と左足が入れ替わり
左手と右足が入れ替わる
奇形人間は空中で爆発する
破裂した私からは美しい血しぶき・
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霧のように拡散
雫の形状で
重力の方向へ
したたり
したたり かたまる
血の雨を浴びる子供たちに懺悔
拡散したものたちが
世界に浸透する欠片
肉体は肉体であるが為に 私には成れない
心は心であるが為に 私には成れない
肉体は肉体のみで独立し 私から旅立て
心は心のみで独立し 私から旅立て
残された私は 存在しない存在として 存在する
残されたものは 私が私ではないという 私の証
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そしてもし僕に ヒューマンストーリーが残されているとしたら
そしてもし僕に ラブコメディが残されているとしたら それは
サスペンスとホラーとアクションに彩られた SFの中で・・・
(血は流れたか?それはいつ?そしてどれぐらい流れた?何の為に?)
(涙は流れたか?それはいつ?そしてどれぐらい流れた?何の為に?)
(炎は流れるものか?炎が流れないものだとしたら、それはなぜか)
(血は固まったか?それはいつ?そしてどれぐらい固まった?何の為に?)
(涙は固まったか?それはいつ?そしてどれぐらい固まった?何の為に?)
(炎は固まるものか?炎が固まらないものだとしたら、それはなぜか)
炎は エネルギーである
炎そのものは 無色無形
炎の色と形は 何が燃焼するか。によって決定される 炎は
自らを、決定しない
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四文字熟語狩心 no まとめ 【 弐 】