たとえば歌をうたうように
ベンジャミン


ああ 今日は
なんて美しい音色だ
風はすこしばかり強すぎるけれど
これは春なのだから仕方ない
それよりそこかしこで
草も木もみんな楽器みたいに
お互いをこすりあわせている

風が吹けば風の音になり
陽をあびれば呼吸が聞こえてくる
息継ぎをなんども繰り返しながら
みんな一心に楽器を奏でている

僕はそれを聞きながら
たとえば歌をうたうように
ペンをすらりと動かして
言葉をこの真っ白なノートに踊らせる
僕もまた一つの楽器になっている

風が吹けば風の笛を
陽をあびれば深呼吸を
どこまでも深い胸の底から
今までにない言葉を吹いている

たとえば歌をうたうように
ペンがすらりと動くたび
新しく生まれてくるものに
ひとつひとつ名前をつけながら
湧いてくる言葉を滑らせる

あたたかい日差しの中で
遠くの人らが会話しながら
風が抜ける並木道を歩いて
何を話しているかわからないけれど
彼らもまた楽器みたいに笑っている

たとえば歌をうたうように
春を身近に感じながら
みんながみんな
草も木も
そして人も
みんながみんな楽器になって
それは誰もが詩人であることに似て
きっとそこに理由はいらないから
僕はその音色に
一日中 寝ることさえ惜しむように

一緒になってうたっていたいのです







自由詩 たとえば歌をうたうように Copyright ベンジャミン 2007-03-14 11:52:08
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