サーカス
はじめ
チャップリンが団長のサーカス団
経営は滅茶苦茶に苦しい
くたびれた乞食同然の団員や動物の大群を連れて世界を放浪している
まさに放浪紳士云われる所以である
団員にはやたらと厳しいくせに自分にはとても甘いのである
まさにチャップリン云われる所以である
メーキャップを人前で外したことがない
だから彼の素顔を見た者は誰もいない
彼は幼い頃から自分の殻に閉じこもっていていつもまにか内面が外に出ることを恐れるようになりメーキャップをするようになったのである
言うなれば彼は仮面をしているのである
仮面の道化師
天才の苦悩がメーキャップを汚す汗に滲んでいる
彼は孤独である
貧しい境遇がそうさせたのである
サーカスは人々が願えば必ずその場所にやって来る
月が涙を流し流星が降る夜 必ず足音立てずまるで盗人のように人々の心にやって来る サーカスは団長自ら余興をやってくれる
彼のパフォーマンスは神に匹敵する
ニジンスキーもびっくりするぐらい繊細で神秘的な身のこなしだ
彼は一度も喋らない
ランボーも嫉妬するぐらい文字のない流暢で幻想的な詩い方だ
人々は彼に深く魅了され感激の拍手喝采を送る
ショーが終わると彼は静かにメーキャップを落とし鏡を見る
そこには端正で柔和な顔がある
彼はそれににっこりと微笑みかけ涙を流す