メロンパンは語り尽くす
ブルース瀬戸内

見たまえ、この格子状の麗しきラインを
これこそがメロンパンだよ。
我々はかつてヴイーナスを美の象徴として崇めた。
しかし歴史は変わった。
アフロディーテすら予測できなかった時代が
到来してしまったのだよ。
美とは何か。美とはメロンパンだよ、分かるかね。
フォルムがすべてを語り尽くしているのだよ。


見たまえ、このビスケッティな表面を。
この下には奇跡的なふんわりが潜んでいるのだ。
この見事なバランスは
黄金比を会得せねば実現できないものだ。
しかし驚かせて申し訳ないが、
メロンパンは意識して
バランスをとっているわけではないのだよ。
このバランスは生来のものなのだ。天性だよ。
バランスとは何か。
バランスとはメロンパンだよ、分かるかね。
存在自体がすべてを語り尽くしているのだよ。


見たまえ、この表面に舞うザラザラとした砂糖を。
メロンパンがこれを拒んでいると思うかね。
答えはノーだ。あらゆる価値をメロンパンは拒まない。
多様の中に自分がいることを理解しているし
多様の中でしか自分が自分になりきれないことも理解している。
多様こそがメロンパン自体を担保するし、
むしろ確固たるものにするのだよ。
なにせ砂糖に舞われたメロンパンは
積極的にそれにアプローチして
今や砂糖はメロンパンに不可欠なものになっているんだからね。
生きるとはこういうことだよ。
つまり生きるとは何か。
生きるとはメロンパンだよ、分かるね。
メロンパンはね、すべてを語り尽くしているのだよ。
たとえ世界がメロンパンを語り尽くすことができなくてもね。


ところで、君は何を語り尽くす?
あるいは何に語り尽くされる?
まあ返事はこのパンを食べてから聞くとしよう。
ドリンクを持ってきたまえ、喉が渇くパンだ。


自由詩 メロンパンは語り尽くす Copyright ブルース瀬戸内 2007-03-12 23:36:20
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