朝の名前
銀猫

窓硝子を挟んで
浅い春は霧雨に点在し
わたしに少しずつ朝が流れ込む

昨夜見た夢を
思い出そうと
胸を凝らしたら
微かに風景が揺れた

なかば迷子の眼で
周りを見渡すと
行き先を書いたはずの小さな紙から
文字や記号が零れ落ちて
雨にすっかり滲んでいる


鞄の中の
持ち物を全部ひろげて
古い靴はもう
棄ててしまおう

三月の翡翠色に惑わぬように
地図を塗り替えて
漂う雨の匂いと
手のひらの温もりを連れて
夜明けには
真新しい名前のわたしで目覚めよう


旅立ち、という三月が
木蓮の蕾を開き
語り忘れた言葉を
白い白い蝶に変えるまえに







自由詩 朝の名前 Copyright 銀猫 2007-03-12 19:41:23
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