rocket
水町綜助
木に囲まれた公園にロケットの形をした遊具があって
それはいろんな色の鉄棒と鉄板で出来てて
張りぼてで
螺旋の滑り台になってて
同僚と会社をサボって俺んちで短パンに着替えて去年の夏
Yシャツとタイダイの短パンとサンダルの俺
Yシャツと短パンと黒革靴の同僚
夏を走って
蝉が馬鹿みたいに泣きじゃくってる中そこに登った
そんで天辺の鉄棒に腰掛けて
葉っぱだったマルボロとキャスターマイルドが煙になったとき
空想って飛ばないロケットのおもちゃかと
何の根拠もなく思った
そんな気がしただけ
木がざわざわとして緑の宝石みたいに光って
口をあけて仰いで見てしまった俺たちには
もう天使の輪っかが与えられていて
今月の支店目標は聖性を帯びて
すべての数値は天空の算式におとされ
酸素と二酸化炭素に変わりすぐに消えた
俺たちは羽根こそないもののロケットで飛び
東京を成功も挫折もひっくるめて飛び越えた
愛知県と埼玉県が遠くに霞んで見えて
俺たちは故郷を思ったが
別に懐かしくはなかった
ロケットには無数の白いカラスと紙飛行機がじゃれついていて
ごうごうと風のうなる中
同僚が言った
空が広い
町が白い
俺たちに意味はない
まったくない
ああそうだ
それでいい
お前は頭が余り良くない
ありていに言えば馬鹿だ
俺と比べるべくもなく馬鹿だ
とんだトンチキ野郎だ
俺は馬鹿ではない
俺は馬鹿ではない
と
俺たちは空中で罵り殴り合い
きりもみしながら昨日渋谷に落ちた
街は春だった