白い薬
なかがわひろか

白い薬、白い薬
飲むと皆が幸せになる

僕は彼女に、彼女は僕に
二人で口を交わしながら
一緒に飲む

世界中の人が
その儀式を毎日のように行って
みんながみんな幸せになる

毎日毎日
世界は幸せになる

白い薬、白い薬
飲まない人も
皆の幸せそうな顔を見て
いつかはみんな飲んでしまう

白い薬、白い薬
その実を摘む人も
それを精製する人も
それを販売する人も
みんなみんな幸せ

赤ちゃんも
男の子も女の子も
お父さんもお母さんも
おじいちゃんも
おばあちゃんも
お友達も
恋人も
みんなみんな白い薬が大好き

白い薬を宿す実は
あらゆる植物の栄養を吸い取って
随分随分大きくなる

畑はただれ
森は腐り
雨はなんだか赤茶けて
そのうち食べる物はなくなる

それでもみんな
白い薬があるから
とってもとっても幸せ

白い薬を宿す実は
食べる物がなくなって
そのうちみんな枯れてしまった
みんなみんな枯れてしまった

白い薬を失った
世界の人は
どうなるだろう

まだみんなそれに気づかない
みんなみんな幸せだから
たくさんたくさん笑ってる
大きな声で笑ってる
だから実が枯れていく音が聞こえない

みんなみんな笑ってる

白い薬、白い薬

それを飲むと

みんなが幸せになる

(「白い薬」)


自由詩 白い薬 Copyright なかがわひろか 2007-03-12 00:01:06
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