彼の腎臓の秘密
吉田ぐんじょう

冬になったら
彼が凍ってしまって
まるきり目を覚まさなくなったもんだから
やさしく体を開いてあげたら
ふたつあるうちの腎臓の
ひとつが石化してしまっていた
両手で上手に取り出して
遠くの森へ埋めてきた
今頃はきっともう
彼の腎臓の上には
針葉樹か何かが生い茂り
霧に包まれていることだろう
春になればその樹には
腎臓がなるのかも知れないが

あのとき腎臓を持った両手は
今でもまだなまぐさい

彼はまだ気づいていない
腎臓がひとつ無くなったことにも
ぽっかりあいた隙間の中に
あのあとわたしがこっそりと
腎臓の形のケーキを焼いて
詰め込んでおいたことにも
全然


自由詩 彼の腎臓の秘密 Copyright 吉田ぐんじょう 2007-03-11 19:15:13
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