彼の腎臓の秘密
吉田ぐんじょう
冬になったら 
彼が凍ってしまって 
まるきり目を覚まさなくなったもんだから 
やさしく体を開いてあげたら 
ふたつあるうちの腎臓の 
ひとつが石化してしまっていた 
両手で上手に取り出して 
遠くの森へ埋めてきた 
今頃はきっともう 
彼の腎臓の上には 
針葉樹か何かが生い茂り 
霧に包まれていることだろう 
春になればその樹には 
腎臓がなるのかも知れないが 
あのとき腎臓を持った両手は 
今でもまだなまぐさい 
彼はまだ気づいていない 
腎臓がひとつ無くなったことにも 
ぽっかりあいた隙間の中に 
あのあとわたしがこっそりと 
腎臓の形のケーキを焼いて 
詰め込んでおいたことにも 
全然