梱包王
シリ・カゲル

 こん、こん、こん
夜、眠れないでいると
いつも扉はたたかれる

 来たですよ
 梱包王ですよ
そう言って差し出された
掌よりもひとまわり大きな名刺には
 ロマノフ王朝の末裔にして
 TVチャンピオン梱包王選手権
 第1回、第3回チャンピオン
            梱包王
と書かれていた

東京には
くだらないものと同じ数だけ
大事なモノがありすぎて
僕の粗削りの部屋は
いつしかモノやモノにあふれていた

梱包王は
さすがに王というだけあって
その仕事ぶりはとても丁寧で
有産的なモノ と 無産的なモノは
きちんと分別し
緩衝材や
地球に優しいリユース資材を使って
ひとつ
またひとつとモノを梱包していった

その仕事ぶりの気持ちよさに
僕はやがて眠って しま う

朝、目覚めると
僕の粗削りの部屋は
段ボールの谷間になっていた
テーブルの上には書き置き

      請求書
          金参万六千円也
 梱包王の仕事はココまでです
 あとは、運送王に依頼してください
 料金は下記の口座に振り込んで
 うんぬん

僕は突然にできた深い谷の底で
  突然にできた痛い出費に
しばし頭を抱えていたが
足もとでは
谷間にしか咲かないスミレが
必死に僕に手を伸ばし続けていた。


自由詩 梱包王 Copyright シリ・カゲル 2007-03-11 12:54:05
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