梱包王
シリ・カゲル
こん、こん、こん
夜、眠れないでいると
いつも扉はたたかれる
来たですよ
梱包王ですよ
そう言って差し出された
掌よりもひとまわり大きな名刺には
ロマノフ王朝の末裔にして
TVチャンピオン梱包王選手権
第1回、第3回チャンピオン
梱包王
と書かれていた
東京には
くだらないものと同じ数だけ
大事なモノがありすぎて
僕の粗削りの部屋は
いつしかモノやモノにあふれていた
梱包王は
さすがに王というだけあって
その仕事ぶりはとても丁寧で
有産的なモノ と 無産的なモノは
きちんと分別し
緩衝材や
地球に優しいリユース資材を使って
ひとつ
またひとつとモノを梱包していった
その仕事ぶりの気持ちよさに
僕はやがて眠って しま う
朝、目覚めると
僕の粗削りの部屋は
段ボールの谷間になっていた
テーブルの上には書き置き
請求書
金参万六千円也
梱包王の仕事はココまでです
あとは、運送王に依頼してください
料金は下記の口座に振り込んで
うんぬん
僕は突然にできた深い谷の底で
突然にできた痛い出費に
しばし頭を抱えていたが
足もとでは
谷間にしか咲かないスミレが
必死に僕に手を伸ばし続けていた。